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民法改正(消滅時効編)

2020.09.29 その他

1 はじめに 
 今回は,「消滅時効」(一定期間放置していると権利が消滅する制度)について,民法の改正によりどう変わったかをご紹介します。

2 改正前は複雑な制度でした
 民法が改正される前は,債権の原則的な消滅時効期間は,権利を行使することができるとき(支払期限など)から10年間と定められていました。
ところが,「商行為」による債権の消滅時効期間は5年間とされ(商法522条本文),さらにその例外として,旅館や飲食店の代金や運賃などは1年間,私達弁護士の報酬は事件終了後2年間とされるなど,債権の種類によって消滅時効期間がバラバラで,わかりづらい制度になっていました。
 消滅時効が完成してしまうと,債権者は権利を失ってしまうことになるのに,いつ消滅時効が完成するかがわかりにくいのでは,私達は安心して経済活動を行うことができません。

3 改正後はシンプルな制度に
 改正民法は上記のような複雑な消滅時効制度を廃止しました。
そして,債権が時効によって消滅するのは,①「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」,又は②「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」のいずれかの場合ということを原則として定めました。改正前の民法では,債権者が「知っていた」かどうかは問題になりませんが,改正民法では,権利行使可能なことを知ったときから5年間で消滅時効が完成することを新たに定めました。また,これに伴い,上記2で挙げた商法522条も削除されています。
 例えば,売掛金を例とすると,通常,売掛金には支払期限を定めていますので,その支払期限が「権利を行使することができる時」になります。そして,債権者は,支払期限がいつかを知っているはずですので,改正民法の下では,売掛金は支払期限から5年の経過で消滅時効が完成することになります。これが①です。
 改正民法では,このほか,債権者が「知っている」かとは関係なく消滅時効が完成する②の規定も用意しています。もっとも,通常は,債権者は権利行使可能なことを知っていることが多いため,支払期限から5年の経過で消滅時効が完成すると覚えていただければ宜しいかと思います(ただし,人の死亡や負傷による損害賠償などでは例外もあります。)。

4 経過措置にご注意を
 法律が改正される場合には,通常,改正前法と改正法のどちらを適用するかを決める「経過措置」が定められます。
 改正民法でも経過措置の規定があり,消滅時効に関しては,2020年4月1日よりも前に債権が発生していれば改正前の民法が適用されることになっています。
 例えば,2018年4月1日に,返済期限を同月30日と約束して友人に50万円を貸したとします。この場合,貸主(債権者)が権利を行使できる(返済を請求できる)のは返済期限である2018年4月30日からとなり,改正前民法では,その日から10年間(2028年4月30日)が経過した時点で消滅時効が完成します。
 この債権は,2020年4月1日よりも前に発生していますので,改正民法が施行されても,その影響を受けることはなく,2028年4月30日の経過により消滅時効が完成することになります(2023年4月30日ではありません。)。

〔弁護士 塩野大介〕