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民法改正(保証編)

2020.06.29 その他

1 はじめに
  明治時代から続く民法(債権法)が改正され,120年ぶりに大きく変わりました。改正された民法は,本年の4月1日から施行されています。
  改正項目は多岐にわたりますが,今回は,身近であり且つ重要である保証制度の改正について解説いたします。

2 金融機関から事業資金を借り入れる際の保証
  中小企業庁や金融庁は,金融機関等に対し,民法改正前から経営者以外の第三者の保証を自粛するよう求めてきましたが,今回の民法改正では,個人保証を制限することを法律で定めました。
民法改正によって保証制度がどう変わるかといいますと,事業のための借入資金等の保証をする際などには,原則として,契約締結の日前1ヵ月以内に作成された公正証書で,保証するという意思を表さない限り,保証自体が無効になります(改正民法465条の6)。
  そのため,改正された民法のもとでは,事業資金の借入等について個人が保証する場合には,保証人が公証役場へ行き,公証人の目の前で,自分が保証する内容(主債務の元金額や利息,損害金など)を確認した上で,保証する意思を公正証書で残すことになります。
  民法改正前は,契約書にサインしてハンコを押せば保証契約が成立していましたが,民法改正後には,公正証書の作成手続を踏まなければ保証契約は無効となりますので,ここは大きな改正点です。
  ただし,主債務者が法人である場合,理事,取締役,執行役等や一定の株主などは公正証書の作成は求められません。また,個人事業で共同して事業を行う者や主債務者の配偶者も公正証書の作成は求められません。

3 アパートなどの賃貸借契約の保証
  アパートなどを賃貸している方も,改正された民法のもとで新たに保証人をつける場合には,従来の契約書を見直す必要があります。
  これまで,アパートなどを賃貸する際,賃借人の債務について第三者に連帯保証を求める場合には,契約書に,保証の内容として,「本賃貸借契約に基づき賃借人が賃貸人に対して負担する賃料支払債務,原状回復債務,損害賠償債務その他一切の債務」などと網羅的に定めることが多かったと思います。
  しかし,民法改正により,このような「一切の債務」を内容とする保証の場合でも,保証契約を結ぶ時点で極度額(保証の上限額)を書面などで記載しておかなければ保証契約が無効になります(改正民法465条の2第2項)。
  そのため,契約書には,上記のように「一切の債務」といった抽象的な保証の内容を記載するのではなく,保証人が自己の保証内容が理解できるような記載をする必要がありますので,注意が必要です。
  立法担当者の解説では,契約書に保証の内容として,「極度額は賃料の○箇月分」と記載するのでは足りない場合があるとされています。保証人が自己の保証内容が理解できるような記載が必要ですから,「賃料の○箇月分」では足りず,賃料の1箇月分が具体的にいくらなのかが同じ書面でわかるようにしておかなければ,保証契約が無効となり得ます。

〔弁護士 塩野大介〕