かなで便り Kanade news

所有者不明土地(建物)管理制度について

2023.08.30 家族問題(相続・遺言、離婚)

 弁護士の樋口です。

 2023年2月のかなで便りにおいて,いわゆる“所有者不明土地”の問題を解決するため「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第25号)」が成立し,その1つとして,相続登記の申請が義務化されたことをお伝えしました。
 今回は,上記法律成立に伴い新設された「所有者不明土地管理制度」「所有者不明建物管理制度」(以下「所有者不明土地(建物)管理制度」と一括して表現します。)の概要について,お伝えいたします。
 この制度も. 「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第25号)」に基づくものでして,令和5年4月1日より施行されています。民法264条の2~264条の8です。法務省のホームページ(法務省:新制度の概要・ポイント (moj.go.jp))で公開されている資料(001401146.pdf (moj.go.jp))のうち,「所有者不明土地(建物)管理制度」に関する箇所を抜粋した資料が,以下のとおりです。
 ●「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」「所有者不明土地(建物)管理制度」抜粋 
 「所有者不明土地(建物)管理制度」を利用する場合には,以下のURLのとおり,東京地方裁判所のホームページで公開された申立書の書式を利用することになります。
共有に関する事件(非訟事件手続法第三編第一章)、土地等の管理に関する事件(非訟事件手続法第三編第二章) | 裁判所 (courts.go.jp)

 現状,空き家等,所有者が不明な土地や建物は,一定数存在します。所有者が不明な土地や建物を売却等処分したい場合,これまでは,相続財産管理人(現在は,相続財産清算人と名称が変更されています。2023年5月号のかなで便りに,概要を記載しております。)等財産管理制度を利用して,対応していました。
 もっとも,相続財産清算人は,対象者の財産全般を管理する「人単位」の仕組みとなっているため,土地建物だけでなく,預貯金等の資産や負債も調査しなければいけません。相続財産清算人を利用するためには,利害関係人が家庭裁判所へ申立書等必要書類を提出した上で,予納金を納付する必要がありますが,それ相応の金額を納付することになります。経験上,相続財産清算人を利用するための予納金は,100万円が多いです(ただ,対象者の預貯金の金額が100万円を優に超えている場合,予納金を納めなくてもよいケースもあります。)。

 これに対して,「所有者不明土地(建物)管理制度」は,所有者が不明な土地建物を対象に,特定の土地・建物のみに特化して管理を行います。所有者不明土地(建物)管理人は,相続財産清算人同様,裁判所の許可を得れば,所有者が不明な土地建物の売却等をすることができます。
 また,「人単位」の仕組みではないため,特定の土地や建物以外の資産や負債を調査する必要がなく,相続財産清算人と比較すると,予納金が低くなるのではないか,と言われております。

 そうすると,所有者が不明な土地建物を売却したい場合は,相続財産清算人の選任申立ではなく,所有者不明土地(建物)管理人の選任申立を利用した方が,一見,良さそうに思われます。
 ただ,予納金の金額に関しては,裁判所のホームページ上で公開されているわけではなく,相続財産清算人申立と比較して本当に低くなっているのか,分かりません。
 また,所有者不明土地(建物)管理人の選任を申立てすることができる「利害関係人」の範囲についても,現状,明らかになっているとはいえません。法務省のホームページで公開されている「民法・不動産登記法部会資料」には,以下のような記載が見受けられました。
・所有者不明土地を適切に管理するという制度趣旨に照らして判断される。
・一般論としていえば,その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や,その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者や民間の買受希望者がこれに当たると考えられる。
 上記記載を踏まえると,債権者は,所有者不明土地(建物)管理人の選任を申立てすることができる「利害関係人」に含まれるのか,分かりません。なお,相続財産清算人の選任を申立てすることができる「利害関係人」には,債権者も含まれます。

 予納金の情報や,利害関係人の範囲に関する情報を踏まえた上で,「所有者不明土地(建物)管理制度」の利用を検討した方が良いと思っております。