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交通事故の加害者が自賠責のみ加入して資力がない場合

2022.08.30 交通事故

 弁護士の樋口です。

 交通事故に遭われてお怪我をしてしまった場合,加害者が任意保険へ加入していれば,任意保険会社より,お怪我の賠償の支払いを受けることができます。また,加害者が任意保険へ加入していなくとも,ご自身が人身傷害補償保険に加入していれば,同保険を利用して,お怪我の賠償の支払いを受けることができます。
 では,加害者が任意保険へ加入しておらず,ご自身も人身傷害補償保険に加入していない場合,誰から,お怪我の賠償の支払いを受けることができるでしょうか。
 加害者ご本人に資力があれば,加害者から直接支払を受けることで解決できるでしょう。しかし,任意保険へ加入していない場合,加害者ご本人に資力がないケースが多いように思われます。
 そうすると,強制保険である自賠責保険会社より,お怪我の賠償の支払いを受けることになります(※強制保険とはいえ,稀に,自賠責保険に加入していない場合もございますが,今回の記事では,自賠責保険会社に加入していることを前提に進めます。)。

 自賠責保険会社は,自動車損害賠償保障法16条の3に基づき,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従って,保険金等を支払う義務を負っています。この支払基準は,以下のURLをクリックすることで,確認できます。
 kijyun.pdf (mlit.go.jp)
 上記支払基準が引用する自動車損害賠償保証施行令記載のとおり,支払限度額も定まっております。
 後遺障害による損害(※損害保険料率算出機構が認定した後遺障害です。)がない場合,治療費等全ての支払限度額は120万円です。
 通院慰謝料は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,【1日あたり4300円 × 以下の①又は②の少ない日数】支払われることとなっております。
① 実際の治療日数の2倍 
② 治療期間の総日数

 この点,裁判を提起した場合に認められる通院慰謝料は,上記支払基準よりも高く設定されております。
 そして,自賠責保険会社を被告として裁判を提起した場合,支払限度額の範囲内であれば,上記支払基準に拘束されず,裁判を提起した場合に認められる通院慰謝料の支払を受けることができます(最判平成18年3月30日判タ1207号70頁)。
 そこで,裁判を提起した場合に認められる通院慰謝料を計算し,その金額を含めても上記支払基準の限度額の範囲の損害であれば,自賠責保険会社を被告として裁判を提起した方が,より多くの賠償を受けることができます。
 例えば,下記ケースの場合,自賠責保険会社へ直接請求する場合と裁判を提起した場合を比較すると,支払を受ける通院慰謝料は,下記のとおり,約30万円も異なります。弁護士費用特約を利用することができれば,経済的な負担もございません。
 下記ケースのように,【加害者は,自賠責保険のみ加入し,資力なし】の交通事故に遭われた場合,解決までにある程度時間をかけてもよいのであれば,自賠責保険会社を被告として裁判を提起することも,選択肢の1つとして検討する価値はあると思われます。


・加害者は,任意保険に入っておらず,自賠責保険のみ加入し,資力なし。
・いわゆる,むち打ち症の怪我を負った。
・そのため,健康保険を利用して,90日間の治療期間にて,週に2度,計24回通院し,怪我は完治した。治療費は15万円,交通費はガソリン代として5000円,休業損害は4万5000円。

【自賠責保険会社へ直接支払を求めた場合】
 4300円×24×2=20万6400円
【自賠責保険会社を被告として裁判を提起した場合】
 裁判上の基準に基づき,53万円