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交通事故が発生した場合に警察官が作成する図面

2021.07.01 交通事故

 交通事故には,大きく分けると「人身事故」と「物件事故」があります。
 「人身事故」は事故により生命身体の損害が生じているものをいい,「物件事故」は負傷がなく車両等の財物の損害のみが生じているものをいいます。
 もっとも,事故により負傷すれば自動的に全件人身事故として警察が処理するわけではなく,警察署へ診断書を提出する必要があります。
 警察官がどちらで処理をしているかは,自動車安全運転センターが発生する交通事故証明書の右下の「照合記録簿の種別」欄を確認すればわかります。
 
 人身事故として警察が処理する場合には,捜査の一環として,事故現場で実況見分が実施され,実況見分調書が作成されることになると思われます。
 実況見分では,事故当事者の説明を参考に,衝突地点や双方車両の動静について,道路幅や車両間の距離を計測するなどして,警察官が図面を作成します。
 そのため,将来民事の賠償交渉で事故態様や過失割合が問題になる場合には,その実況見分調書を取り寄せて証拠として利用することが殆どです。
 
 他方,物件事故として警察が処理する場合には,原則として実況見分調書は作成されず,物件事故報告書という簡易な図面が作成されます。
 物件事故報告書には,道路幅や車両間の距離などは書かれず,とてもシンプルに記載されていることが多いのですが,民事の裁判では,この物件事故報告書を裁判官が重視することもあります。
 物件事故の場合,ドライブレコーダーがない限り,事故態様を証明する証拠に乏しいので,物件事故報告書を拠り所にしたいと考える裁判官がいるのでしょう。
 ただし,警察官は,そのような民事の裁判での利用を想定して物件事故報告書を作成しているわけではないので,当事者が説明した事故態様と異なるものが作成されることもあります。
 
 事故が起きた場合には,お怪我をされていない物件事故だとしても相当動揺されていると思いますが,自分が認識している事故状況をしっかりと警察官に理解してもらうことも,将来の賠償交渉を見据えた場合には重要になってきますので,頭の片隅に留めていただけると幸いです。

〔弁護士 塩野大介〕