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自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの紹介

2019.12.30 その他

 先月,相田弁護士が台風15号,19号による被災に関し,自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「GL」といいます。)を紹介されていました。
 かなで便り12月号でも,このGLについて引き続きご紹介したいと思います。

1 はじめに
 住宅ローンや事業性ローンを組んでいた場合,震災が起こると,これらの既存の債務が残ったままでは,震災後の再スタートのために新たにローンを組むことは困難なことが多いと思われます(二重ローン問題)。
 そこで,震災前の借入れの返済が困難となった個人が,一定の要件の下で債務の減免を受けられるようにするためにGLが制定され,2016年4月1日から適用が開始となりました。
 GLは,法律ではなく,金融機関等が債務者の自助努力による生活や事業の再建のために債務整理を行う場合の指針であるため強制力を伴うものではありませんが,金融機関等は,被災者支援の一環として,GLによる債務整理手続を尊重してくれます(平成28年の熊本地震,平成30年の北海道胆振東部を中心とした地震,平成30年の西日本豪雨などの際にも,GLでの債務整理が積極的に利用されています。)。
 
2 GLによる債務整理のメリット
 GLによる債務整理のメリットとしては,以下の4つが挙げられます。

 ①信用情報機関に登録されずに債務整理ができること
 ②債務整理をしても相当額の資産を手元に残すことができること
 ③債務整理手続において登録支援専門家(弁護士,不動産鑑定士等)の支援を無料で受けられること
 ④原則として保証人に請求されないこと

3 GL手続を行うための要件
 GL手続の対象となり得る債務者及び債権者の要件は以下のとおりです。多くの要件が定められているように思われるかもしれませんが,法的整理をすることなく債務の免除等を受けるのですから,それに見合った要件が必要とされるのはやむを得ないことではないでしょうか。

 ①災害の影響を受けたことによって,住宅ローン,住宅のリフォームローンや事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実に見込まれること
 ②弁済について誠実であり,財産状況を対象債権者に対して適正に開示していること
 ③災害が発生する以前に,対象債権者に対する債務の期限の利益喪失事由がないこと(ただし,事由があっても対象債権者の同意があればGL手続を利用可能)
 ④GLによる手続による対象債権者への弁済額が,破産手続や民事再生手続と同等額以上となること(経済合理性)
 ⑤債務者が事業者の場合,その事業に価値があり対象債権者の支援により再建可能性があること
 ⑥反社会的勢力ではなく,そのおそれもないこと
 ⑦破産法に規定されている免責不許可事由(破産法252条1項10号を除く)がないこと
 
4 注意点
 災害後に新たな新築再築の住宅ローン融資を約束したり,新たな住宅ローン契約を締結した場合には,原則としてGLによる手続を利用することができません。そのため,今回の台風のために新たなローンを組んで再建しようとされている方は,その前に,GLによる整理が可能かどうか一度法律専門家にご相談いただくことをお勧めします。

〔弁護士 塩野大介〕